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アンティークとしての広告板

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過去から現在に至るまで、ビールの宣伝にはポスターや広告板(蘭:reclameborden, 仏:plaques émaillées, 英:billboards)がよく用いられます。

これらには稀に情報として興味深いものもあり、また魅力的なイラストのものも多々あります。
さほど高価なものはありませんが、古いものについては、アンティークに近い捉え方をされるものもあります。

以下は、私の家の壁に掛かっているコレクションの一部です。

【Rodenbach】
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1960年製。グラスの形状が現在の形状と異なり、ランビックなどに用いられている素朴なタイプの形状をしている点が印象的です(因みに、ローデンバッハのグラスは一時期チューリップ型というより、アザミ型だった時期もあります。参照)。山盛りの海老は、ローデンバッハと良く合う食材ということで載っているのでしょうが、結構リアルです・・・。

【Winderickx Kriek Extra】
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Paul-Eldi画(1949年)。1969年に閉鎖されたドゥオールプ(Dworp)のランビック生産者ウィンデリクス醸造所(Brasserie Winderickx)の広告板。この醸造所の最後のオーナーだったEdgar Winderickx氏といえばランビックの世界の生き字引のような人物です。クリークを持った婦人の構図が中々良い。

【Guignies Extra Spéciale】
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トゥルネイの南ギニー(Guignies)にあったAllard-Groetembril醸造所(1990年12月閉鎖)の広告板。ベルギービールファンの方ならば、この女性のイラストを何処かで見たことがあるかもしれません。分かりますか?
答えはこれです。

【De Koninck】
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アントワープの著名な醸造所の広告板。作成年代は不明。

【De Koninck Duivelsbier】
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こちらは、“De Koninck”違いで、ドゥオールプ(Dworp)にかつて存在したランビックブレンダーの“Duivelsbier(悪魔のビール)”の広告板。この生産者は1977年に生産を中止しました。この“Duivelsbier”と呼ばれるタイプのビールは、フランク・ボーン醸造所(Brouwerij F. Boon)が現在でも生産しています。

【Louis & Emile De Coster】
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モレンベーク(Molenbeek)と呼ばれるブリュッセルの下町にあったランビックの醸造所(1965年閉鎖)。この醸造所はベルビュー醸造所に引き継がれ、1990年代後半までは活用されていました。

【Witkap Pater】
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1976年製。ウィットカップ(Witkap)が、トラピストビール(trappsitenbier)を名乗っていた最後の頃のプラスチック製広告板。ウィットカップとトラピストとの関係については、以前記事にしました。

【Vandenkerckhoven】
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1940年に閉鎖されたブリュッセルのランビック生産者のポスター。
昔は“gueuse”(現在は、蘭語ならgeuze、仏語ならgueuze)という綴りも有りだったことを認識できます。
とはいえ、この醸造所の古いラベルを持っていますが、その綴りは“gueuze”です。
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他にもまだ沢山ありますが、この辺で。
最後に、太子判(379×288)の額や、端材で作られた安価な額縁にコースターやラベルを入れてみても、それなりに絵になります。私の場合、無造作に壁に吊るしてあるだけですが・・・。
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■No.710_Achel 5 Blond/Achel 5 Bruin

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Achel 5 Blond (アヘル・5・ブロント;ベルギー/リンブルフ州)。アルコール度数5.0%、原材料:大麦麦芽、ホップ(ケント・ゴールディングス、ハラタウ・ヘルスブルッカー、ザーツ)。ベルジャン・ブロンドエール。
Achel 5 Bruin (アヘル・5・ブライン;ベルギー/リンブルフ州)。アルコール度数5.0%、原材料:大麦麦芽、ホップ(上記と同じ)。ベルジャン・ダークエール。

写真1枚目は、左側がアヘル・5・ブロント、右側がアヘル・5・ブラインです。いずれも微かに濁っています。

アヘル・5・ブロント:丸みのあるシトラス系の果実を思わせるアロマ、アーシーなホップのアロマ。口に含むと、パイナップルのような果実感はあるが、甘味はやや弱く、ドライな一方で、ホップの苦味は比較的強い印象。ドリンカブルなビール。
アヘル・5・ブライン:トフィ・キャンディ様の甘味を感じさせるアロマ、レーズン、ドライ・フィグのようなドライフルーツのアロマ。口に含むと、三温糖かカラメルのような、やや焦げたような風味を伴った甘味が支配的。背景にレーズンのような風味。フィニッシュに明確なホップの苦味。やや統一感に乏しい全体印象。

ベルギー国内では、聖心ノートルダム修道院(Westmalle)、スクールモン修道院(Chimay)、オルヴァル修道院(Orval)、ノートルダム・ドゥ・サン=レミ修道院(Rochefort)、シント・シクスタス修道院(Westvleteren)、アヘル修道院(Achel)の6つのトラピスト修道院がビールを醸造しています。

彼らのビールには、通常流通しているものよりも低アルコールの、修道院内やその隣接カフェなどで限定的に消費されるものがあります。

聖心ノートルダム修道院の「ウェストマル・エクストラ(Westmalle Extra;ABV 4.8%)」、スクールモン修道院の(最近はこれをより流通させようという試みがありますが)「シメイ・ドレー(Chimay Dorée;ABV 4.8%)」、オルヴァル修道院の「オルヴァル・ヴェール(Orval Vert;ABV 4.5%)」などが有名です。

現在、ウエストフレテレンのビールのラインナップは、アプト(Abt:黄色キャップ)、エクストラ(Extra:青色キャップ)、ブロント(Blond:緑色キャップ)の3種類ですが、かつてはアプト、エクストラに加え、スペシアル(Special;赤色キャップ;ABV 6.2%)と、もう1種類、“Dubbel”(デュブル;緑色キャップ;ABV 3.5%)という低アルコールビールが存在しました(因みに、ブロントは1999年6月に発売されました)。

2013年現在、最も年間醸造量の少ない(※)と思われるアヘル醸造所(Brouwerij der Sint Benedictusabdij de Achelse Kluis)においても、あまり有名ではありませんが、修道院内にある醸造所併設カフェでのみ供されている低アルコールのトラピストビールがあります。それが、“Achel 5 Blond(アヘル・ファイフ・ブロント)”と“Achel 5 Bruin(アヘル・ファイフ・ブライン)”です。この2つのビールはボトルでは流通しておらず、ドラフトのみ存在します。

このように、ベルギーとオランダの国境にあるアヘル修道院という“僻地”に訪れないと飲めないビールですが、CAMRAが出版している“100 Belgian Beers to Try Before You Die !(死ぬ前に試すべき100のベルギービール) ”という書籍では、Achel 5 Blondがノミネートされています。

アヘル醸造所のビールとしては、Achel Bruin 8やAchel Blond 8が日本国内で流通していますが、実のところ、これらは2001年から醸造されているものです。
アヘルが醸造所を操業したのは1998年であり、最初にリリースしたビールは、酵母の提供主であるウェストマル醸造所の「エクストラ」を範とする低アルコールビールでした(Blond 4、Bruin 5、Blond 6)。その後、Blond 4は今回ご紹介のBlond 5に置き換わり、Bruin 5は(恐らく)若干のレシピの修正を経て継続的に醸造され、Blond 6は姿を消したというのが実情です。

最後にアヘル醸造所や修道院内の風景については、こちらをご参照ください。

アヘル修道院HP
http://www.achelsekluis.org/

【注※】
Zythos「10 jaar ZBF 2013」のしおりに因れば、年間生産量はウェストマル 125,000hL、シメイ 105,000hL、オルヴァル 43,000hL、ロシュフォール18,000hL、アヘル4,000hL。ウエストフレテレンは、概算で4,750hL。

■No.711_Den Toetëlèr Wit

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Den Toetëlèr Wit (デン・トーテレール・ウィット;ベルギー/リンブルフ州)。アルコール度数5.2%、原材料:大麦麦芽、小麦、オーツ麦、ホップ、エルダーフラワー。無濾過、非加熱、瓶内発酵。ベルジャンスタイル・ウィートエール。

キウイフルーツあるいは、青々とした葉野菜を思わせる、典型的なエルダーフラワーの香りが強い。背景にレモンのようなシトラス系の香りや、蜂蜜を思わせる甘い香り、エステル系の派手な香りもあります。口に含むと、エルダーフラワーの風味に、ウィートエールらしい小麦の風味がよく調和しています。甘味は控え目。やや穀物様。余韻は短い。非常にドリンカブル。

このビールは、エルダーフラワー(ニワトコの花 :vlierbloesem)を使用している珍しいベルジャン・ウィートエールです。小麦ビールの味わいとエルダーフラワーのフレーヴァーが興味深いバランスを作っており、非常に独創的な品だと感じます。

恐らく、輸入ビールの銘柄に詳しい人であれば、ニワトコを用いたビールということで真っ先に思いつく銘柄は、スコットランドのウィリアム・ブラザーズ(Williams Brothers:ヘザーエールズ社)のエビュラム(Ebulum)ではないでしょうか(※)。
かつて、エビュラムは故マイケル・ジャクソン氏の“Great Beer Guide”の500本に選ばれたこともあります。

エビュラムではエルダーベリー(ニワトコの実)が――発酵プロセスにおいて――用いられていましたが、デン・トーテレール醸造所のウィートエールでは「エルダーフラワー(ニワトコの花)」が煮沸プロセスに用いられています。

デン・トーテレール醸造所は、ベルギー・リンブルフ州の州都であるハッセルト(Hasselt)の南東にあるフーセルト(Hoeselt)という小さな街にあります。“Toetëlèr”とは、「ニワトコの藪」を意味するこの地方の方言であり、醸造所の正面にはシンボルとしてニワトコの木が植樹されています。
そのデン・トーテレール醸造所のフラッグビールが今回ご紹介のホワイトエールです。

この醸造所のビールには全てエルダーフラワーが用いられているというから徹底しています。尤も、シナモンの香りが強いスペキュラース(Speculaas)、乳酸菌由来の発酵臭や6ヵ月間の長期熟成の影響が強いエヒト・クリーク(Echte Kriek)のようなビールでは、ウィットのように明確なエルダーフラワーのアロマは感じられません。

デン・トーテレール醸造所のオーナーであるリュク・フェスチェンス氏(Luc Festjens)は「エルダーフラワー」のアロマを芽キャベツ(spruitjes/ choux de Bruxelles/ Brussels sprouts)と喩えていましたが、私はこのビールの香りをキウイフルーツとでも喩えたい気がします。重要な点は、日本のニワトコと異なり、セイヨウニワトコの花は非常に香りが強いということです。

この醸造所は2011年1月にリュク・フェスチェンス氏により設立された新しい醸造所です。
1バッチのキャパシティは800Lで、2,200リットルの発酵タンク、1,600Lの貯酒タンクを有する極小規模の醸造所です。しかし、醸造責任者であり、クオリティを管理しているマルク・クレールマンス氏(Marc Cleeremans)は、ルーヴァン大学で醸造学を学んだ方であり、ヘント(Gent)で自家醸造家向けに講師を勤めておられる方ということもあり、この醸造所の銘柄を一通り試しましたが、クオリティはかなり高いと感じました。

なお、最後にこのウィートエールには伝統的なベルジャン・ウィートエールに用いられてきた「オーツ麦」が用いられていることも指摘しておきたいと思います(※※)。

【注】
※ ベルギーには、カンティヨン醸造所(Brasserie Cantillon)のマムーシュ(Mamouche:Zwanze 2009と同じ)、カズー醸造所(Brasserie de Cazeau)のセゾン・カズー(Saison Cazeau)など、いずれも“小麦ビール”であるが、エルダーフラワーを用いた非常に素晴らしいビールがあることを付言しておく(因みに、ベルギーにはニワトコ〔vlier〕を冠するドゥ・ヴリエール醸造所〔Brouwerij De Vlier〕という小規模生産者がルーヴァンにあるが、これはヴリエールベーク〔Vlierbeek〕という地名に由来している)。このようなエルダーフラワーを用いた興味深いエールは、イギリス、スコットランドでも伝統的に造られてきた。

※※ 現在では「オーツ麦」を用いたベルジャン・ウィートエールはごく限られているが、かつてのベルジャン・ウィートエールではごく少量のオーツ麦を用いる方がむしろ主流であった。ベルジャン・ウィートエールにおける「復興の祖」であるピエール・セリス氏(Pierre Celis)が造った最初期のウィートエールにもオーツ麦が用いられていたし(これは、セリス氏が学んだ醸造所[Brouwerij Tomsin]のレシピが関係している)、1970年頃に消滅したルーヴァンの白ビールである「ペーテルマン(Peeterman)」やブロンシュ・ドゥ・ルーヴァン(Blanched de Louvain)もJean De Clerckによればオーツ麦が用いられていた。

【参考文献】
Raymond Billen. Pierre Celis My Life, Media Marketing Communications(2005), p.43.
Jean De Clerck. Textbook of Brewing Vol. I, Chapman & Hall(1958), p.556-557.

【参考HP】
デン・トーテレール醸造所HP
http://www.toeteler.be/wp/

■No.712_Loterbol Roodebol (Duysters)

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Loterbol Roodebol (ローテルボー・ロードゥボー;ベルギー/フラームス・ブラバント州)。アルコール度数6.6%、750mL、原材料 大麦麦芽、ホップ、サクランボ(ヘートベッツ産)。無濾過、非加熱、瓶内発酵。16プラート(初期比重1.065)。フルーツビール(サワーエール)。

外観はブラウンがかった赤。ヘッドのフォーメーションやリテンションは弱い。アロマはサクランボの香りが明確で、ブドウを思わせる香り、酸味を予想させる香り、微かにブレッティな香りがあります。口に含むと、しっかりしたサクランボの味わいと、さほど強烈ではありませんが、明らかな乳酸系の酸味があります(このビールはサワーエールの括りで捉えても良いと思います)。また、微かに鉄を思わせる風味が感じられます。ドライで、非常にドリンカブル。

ベルギーには、ウィークエンド・ブリュワー(日曜醸造家)が多々います。

フラームス・ブラバント州ディースト(Diest)にある、ローテルボー醸造所(Brouwerij Loterbol)のマルク・ベイレンス(Marc Beirens)氏もビールの輸出入業者を営みつつ、醸造所を運営しています。また、この醸造所には併設カフェがありますが、そのお店に至っては、月の初めの土曜日のみ、つまり月に1回しかオープンしません(※)。しかし、そこでは中々魅力的なビールを飲むことが出来ます。

例えば、定番のブロンドビール(Blond)やブラウンビール(Bruin)をタップで飲めるだけでなく、ローテルボー醸造所の自家製ブロンドエールと、ドリー・フォンテイネン醸造所の若いランビックをブレンドしたトゥーヴェルボー(Tuverbol)などです。今回ご紹介のロードゥボー(Roodebol)も非常に興味深い品です。

このビールはローテルボー・ブロント(Loterbol Blond)に、フラームス・ブラバント州ヘートベッツ(Geetbets)で栽培されたサクランボを10ヵ月間にわたって浸漬して造られます。ボトルネックにグリーンの紐で掛けられた、赤い紙のラベルはサクランボを模しています。規格は750mL瓶のものしかなく、生産量は非常に限られています。

最後に、ローテルボー醸造所とカフェの風景については、以前の記事にアップしてありますので、こちらをご参照ください。

【注※】
ブリュッセルから電車でディーストまで行けば、この醸造所とカフェはディースト駅から徒歩圏にあるので、月の初めの土曜日にブリュッセルで暇を持て余すようならば、散歩がてら訪れてみるのも良いかもしれない。
土曜日の場合、ブリュッセル(南/中央/北) → ルーヴァン → ディースト(1回乗り換え:約1時間)あるいは、ブリュッセル(南/中央/北) → ルーヴァン → アールスコット(Aarschot)→ディースト(2回乗り換え:約1時間半)のルートで行くことができる(両者のルートは交互に出ている)。
余談だが、ブリュッセルはランビック(Lambiek)、ルーヴァンはペーテルマン(Peeterman)、アールスコットはアールスコッツ(Aarschots/ Aarschotse Bruine)、ディーストはディーステルス(Diesters)と、これらの地にはその地ならではの有名な地ビールが存在した。今でも残っているのはランビックのみである。

【参考HP】
ローテルボー醸造所HP
http://www.loterbol.be/

Craft Beer in Japan: the essential guide

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2013年9月に刊行された、日本のクラフトビールに関して英語で書かれた最初のガイドブックです。
これは、記念碑的な1冊であり、これまでに日本のクラフトビールに関して書かれた著作の中で、日本語のものも含めて、最も優れているものの1つと言って差し支えないと思います。

その理由は、網羅的である上に、醸造所の提供資料のみに依拠するようなことはせず、クリティカルにテイスティング評価がなされていること、醸造所の物造りの姿勢や変化にまで的確かつ率直に触れているからで、膨大なビールに関する筆者の経験がそのバックボーンにあります。

また、各ビールについて、7段階でレイティング(点数化)を試みています。この点も実は今までの日本のクラフトビールの書籍には全くなかった視点です。

この評価システムついて、マイケル・ジャクソン氏の「Pocket Guide to Beer」でもなされていますが、ジャクソンの場合、最低ランク(☆)は、「Typical of its country and style(該当国やスタイルにおける典型例)」であり、「☆☆」は「Above average(平均より上)」です。一方、本書では「☆」は「Has serious problems (深刻な問題がある)」、「☆/☆(1.5点)」は「Better to pass (やめておいた方がいい)」、「☆☆」は「Worth a try; some will like it and some might not(試す価値あり;人によっては好きになるが、人によってはそうでないかも)」とやや辛辣です。

このような「評価を行うこと」については、常に賛否両論あります。
つまり、このような評論が生産者にダメージを与えるので「よろしくない」という発想もあれば、評論家が完全な価値相対主義を貫くということは無責任であるとの発想もあります。後者は分かりにくいかもしれませんが、たった1度日本に訪れた外国人が、日本のクラフトビールを前にしたとき、どちらの書籍が役立つのか、もっといえば、日本のクラフトビール業界のためになっているのか、という観点です。

このような評論的態度について、日本はあまりに免疫がないのか、個人レベルでの評論さえも辞めた方が良いとの意見さえ有ります。私はどちらかというと、そのような評論的態度を避けている人間ですが、(例えば、SNS等での)評論は差し控えるべきであるといった態度は、電車の中や室内にはウイルスや真菌がいるのに対し、「無菌室にいると感染症にならない」と考える人の態度にどこか近い気もします。

一方で、評価システムの不確かさは意外と「評判(reputation)」に脆いという側面です。
例えば、ビール通ならば誰でも知っていて、何処にでも流通しているビールがあって、それが年々つまらなく、平凡なものになっていたとしても、ビールの評価サイトでは相変わらず高い評価を得続けています。ただ、それは評価者の力量にも大きく依拠しているのではないかと思うのは、2009年までに第6版を重ねた「Good beer Guide Belgium」では、そのようなビールは第1版から延々と星の数を落とし続けていて、それは私の個人的感覚からも首肯できるものです。

こうした「乖離」は何なのかといえば、例えば、“トラピスト”というラベルがビールの評価を何となく良いものにしてしまうという「評判の効用」としか言い様がありません。

話は逸れましたが、「Craft Beer in Japan: the essential guide」に関していえば、評価軸は独善的なものではなく、十分に説得性のある水準だと思います。

著者のマーク・メリ(Mark Meli)氏は、関西大学で教鞭を執られている方ですが、Ratebeer でのレビュー(KyotoLefty名で執筆)の内容を見れば、日本の国内外のビール評価に相当精通しており、本書の内容からも分かりますが、世界のクラフトビールで受け入れられている尺度を踏まえつつ、十分な専門性をもって、日本のクラフトビールの評価を「世界の中に位置づける試み」を行っています。

その試みは、Ratebeerを含むビール評価サイトの平均的傾向にみられるような、「極端なビール」に対して過大に評価を与えるような粗野な偏向(?)は全くなく、味わい深さ、独創性、バランス、そのスタイルに求められるべき要素に対する評価感覚が信頼できるように思います。

ピルスナー、ペールエール、ブロンドエールのようなスタイルの評価が、Ratebeerでは不適切だと感じる機会が非常に多いため、苦々しく思っている私にとっては、このような判断軸で日本のビールを世界に発信して頂けたことはとても悦ばしいことだと思います。

今後、日本語版が刊行されるとのことですが、日本人からこのような高い水準のクラフトビールに関する著作が中々出ないことは、少々残念といえば残念です。しかし、そこのところは、「ビール好きに国境はない」という有りがちな常套句で誤魔化すことにします。

何はともあれ、著者とこの好著を祝福したいと思います。

【書籍情報】
Pages: 207
Publisher: Bright Wave Media, Inc.
Edition: 1st
Printed: September 2013

【購入先】
書籍版(Bright Wave Media)
Kindle版(Amazon)

Georges Christiaens 氏、逝く

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12月4日、ベルギーのイープルからコルトレイクを繋ぐA19で約140台の玉突き事故がありました。
2名の方が事故で亡くなられましたが、その中の1人にデカ醸造所(Brouwerij Deca)のGeorges Christiaens 氏(83)が含まれました。

4日ほど生死の境を彷徨ったとのことです。

筆者は、ちょうど半年ほど前、フレテレン(Vleteren)を訪れ、同氏とデカ醸造所で杯を交わす機会がありました。この方のアフリカ等で醸造所を幾つも立ち上げては、それを譲っていったという話、デカ醸造所のビールについて仔細を尋ねると、よどみなく回答が戻ってきたことが、今のように思い出されます。

安らかな眠りをお祈りいたします。


【ニュースリソース】
Het Nieuwsblad.be
Kettingbotsing A19 eist tweede dode.
http://www.nieuwsblad.be/article/detail.aspx?articleid=DMF20131208_00876898
(maandag 09 december 2013)

【写真】
デカ醸造所の開放型発酵槽。
開放型発酵槽を現在使用している醸造所の中では、最も古い醸造所の1つに数えられると思われる。
最近になって、このような古い開放型発酵槽またはそれに準じるものをメソッドとして使用するところが増えてきたが、Georges Christiaens 氏は、この点については無関心な様子だった。
しかし、かつて、このデカ醸造所を間借りしてビールを造っていたドゥ・ランク醸造所(Brouwerij De Ranke)のニノ・バサラ氏らは閉鎖型発酵槽をいわば開放型発酵槽に類するような使い方をしており、筆者にその詳細を語って下さったことがある。私はそのドゥ・ランク醸造所で聞いた説明と同じことを、数年後に、モレンベーク(Molenbeek-Saint-Jean)にあるドゥ・ラ・センヌ醸造所(Brasserie de la Senne)を訪れた際、イヴァン・ドゥ・バーツ氏から聞いたが、同氏はドゥ・ランク醸造所を間借りしていたことがあった。デカ醸造所という古びた醸造所は、様々な意味において、ベルギーの若い醸造家たちに影響を及ぼしているように思われる。

■No.713_Steðji Þorrabjór

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Steðji Þorrabjór (ステンディエ・フォルラビョール;アイスランド)。アルコール度数5.2%、330mL。原材料:大麦麦芽、ホップ、鯨粉(hvalmjöl:Hvalur社製)。濾過済、低温殺菌済。アンバーエール(鯨入りビール)。

なかなか洒落たラベルのデザインです。

泡立ち・泡持ちは良い。香ばしいカラメル様のアロマが非常に明確で、何処かしら砂糖醤油を煮詰めたような香り。口に含むと、モルトの甘味がしっかりしており、充実感(フォルムンディッヒカイト)があります。ごく微量の酸味。フィニッシュの風味の抜けがやや遅いことや、ボディの全体印象から若干鈍重な感があります。舌の上に穀物感と微かなホップの風味。ホップの苦味は目立ちません。

アルコール度数は5%程度ですが、何処となく(下面発酵ビールなのですが)ボックを連想させるような風味と力強さを持っています。このビールの素性を知らない方がこれを飲んだとして、鯨が使われていることに気付く人はまずいないと思います。
尤も、その事実はビールに鯨を用いることの必然性に疑問符を付けてしまうのかも知れませんが・・・・。

今回ご紹介の品は、日本やノルウェイと並ぶ有力な捕鯨賛成国の1つである、アイスランドにあるステンディエ(Steðji)醸造所が、捕鯨会社のクワルフ社(Hvalur:1948年設立)とコラボレーションで造った「鯨入りビール」です。

2014年1月中旬、インターネット上に下記のようなニュースが流れました。このビールの話題です。
2014年1月17日 22:10 (AFPBB News)
クジラ肉原料ビール、製造禁止に アイスランド
【AFP=時事】アイスランドで原料にクジラの肉が使用されている地ビールの製造が、年明けの6日から禁止され、環境活動家らが歓迎している。
問題のビールは 、地ビール醸造会社「Stedji」と捕鯨会社「クバルル(Hvalur)」が合弁事業で製造していたもの。クジラ肉からクジラ油を製造する際の残留物を原料として使用していた。
同国の公衆衛生当局のヘルギ・ヘルガソン(Helgi Helgason)氏は「クバルルは、食品製造のための生産許可を得ていない。従って製造を中止させる必要があった」と国営放送に語った。アイスランド当局の決定について、世界クジラ・イルカ保護協会(Whale and Dolphin Conservation Society、WDCS)は歓迎の意を表明している。
環境活動家らはこのビールが、クジラ関連製品の新たな市場を切り開く試みだとして警戒していた。WDCSの広報担当ダニー・グローブス(Danny Groves)氏は「アイスランドと日本の需要不足が意味することは、クジラ肉業界が新たな市場を見つけなければならないということだ。そうした試みの1例がビールだ」と述べた。Stedjiでは、ビール2000リットルにつき、約1キロのクジラ肉を使用していた。
ある醸造業者は、クジラ肉粉ビールはあらゆる試験を合格していたと惜しみながら「しかし、それが最終決定ならば、われわれは従わければならない」と語った。
【翻訳編集】AFPBB News

上記のようなプロセスで、2014年1月24日に発売予定だったこのビールは発売中止に追いやられました。

このニュースに(このビールは)「鯨肉から鯨油を製造する際の残留物を原料として使用していた」とあるとおり、この醸造所のオーナーであるダークビャハトゥール・アーリリウソン氏(Dagbjartur Ariliusson)によれば、蛋白質を含んではいるものの、脂質を殆ど含んでいない鯨粉の粕を使用しているのだそうです。現在、アイスランドでは、ミンククジラ、ナガスクジラなどを対象に捕鯨を行っており、鯨油精製の残渣を用いているということから、このビールに使われている鯨は、ナガスクジラではないかと推察します。

同氏に話を伺ったところ、上記の醸造停止は何の議論もなく強制的に執行されたため、現状は生産を停止するが、今後、弁護士を雇って係争するとも仰っていました。

醸造停止に至った経緯として、食品製造のための生産許可という法的問題と、捕鯨反対という思想的問題が、各国ニュースでもゴチャゴチャに報じられており、何が当局にこのビールを生産中止に追い込んだのかは今一つ判然としませんが、どうやら総合すると、鯨油の残渣として残る鯨粉を食用として用いたことへの停止命令ということのようです。

しかし、このようにセンセーショナルに取り扱われること自体、捕鯨文化を保護しようとする人々と、捕鯨に反対しようとする人々との間に、埋めようのない情緒的な軋轢があることの証でもあるようです。

このブログは捕鯨そのものの是非について議論する場所ではありませんが、個人的には、地域に根付いた文化やその多様性を重んじ、自文化中心主義的で、狭隘な価値判断から“抜け出そうとする”ことが、それが可能か否かを問わず、この話題を狂信的に論じるか、あるいは、理性的に論じられるかの差だと考えています。

ステンディエ醸造所HP
http://www.stedji.com/heim.html

■No.714_Lindemans Heeren van Liedekercke 20 Anniversary Blend

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Lindemans Heeren van Liedekercke 20 Anniversary Blend (リンデマンス・ヘーレン・ヴァン・リーデケルク・20 アニヴァーサリー・ブレンド;ベルギー/フラームス・ブラバント州)。アルコール度数5.0%、750mL、原材料 大麦麦芽、小麦、ホップ。無濾過、非加熱、瓶内発酵。2011年5月17日瓶詰。賞味期限(ten minste houdbaar;best before)2043年9月3日。アウドゥ・グーズ(Oude Geuze)。

グレープフルーツとその皮のような酸味と苦味を思わすアロマが前面にあります。微かに桃のようなアロマ。口に含むと、前述のフルーティな風味に加え、ランビックとしてはマイルドな酸味と弱い渋み。非常に微かな甘味。ボディは弱い。雑味が少なく、かなりドライなフィニッシュで抜けが早い。いわゆる、ソフトランビック。

賞味期限は2043年とのことですが、これはお遊びでしょう。ボディの強さなど、このインテンスを総合すると、恐らく、瓶詰後10年で「下り坂」になると思います。

東フランデレン州デンデルレーウ(Denderleeuw)には、有名なビールレストランがあります。ドゥ・ヘーレン・ヴァン・リーデケルク(De Heeren van Liedekercke)です。直訳すれば、“リーデケルクの紳士(達)”です(リーデケルクとはデンデルレーウに近接する地名です)。

このレストランは400銘柄を超す膨大なビールのメニューもさることながら、ビールを用いた料理でも有名で、ミシュランガイドの「ベルギー・ルクセンブルク版」の2013年版からBib Gourmand(ビブ・グルマン)の項目で紹介されています (ビブ・グルマンについては、以前書きましたのでこちらをご参照下さい)。

1991年に設立されたヘーレン・ヴァン・リーデケルクは、2011年9月1日に20周年を迎えました。その記念ビールが今回ご紹介のグーズ・ランビックです。リンデマンス醸造所(Brouwerij Lindemans)がこのレストランのために特別に製造に協力しています。ブレンドの内容は、リンデマンス醸造所の1年物のランビック、同醸造所の2年物のランビック、ジラルダン醸造所の2年物のランビックです。

着目すべき点はリンデマンス醸造所が、いわば「ブレンダー(stekerij)」としてこのビールの製造に協力したという点でしょう。つまり、醸造所であるリンデマンスが、異なる醸造所であるジラルダンのランビックをブレンドして、この店に託したのです。ベルギービールに詳しい人にとっては、このようにリンデマンス醸造所がブレンダーとしてグーズを生産したという事実に、違和感を覚える方もおられるかもしれません。

私もリンデマンス醸造所のブレンダーとしての活動事例をあまり知りませんが、1970年代後半に閉鎖されたスケープダール(Schepdaal)のブレンダー「ドゥ・トロフ・トゥール(De Troch Tuur)」のグーズを1980年代後半までリンデマンス醸造所はブレンダーとして代理生産していましたが、少なくとも2000年以降では聞いたことがありません。

昨今、ブレンダーが製造しているレギュラーのアウドゥ・グーズは、フランク・ボーン醸造所(Brouwerij F. Boon)のランビックを必ず使っています(しかも、かなりの比率で使っています)。しかしながら、今回のものはフランク・ボーン醸造所のものが含まれていません。その点でも特異といえるのではないでしょうか。

以前、に書きましたが、リンデマンス醸造所のランビックを顕微鏡で観察すると、ラクトバチルス(Lactobacillus)属のような桿菌が優勢で、伝統的なランビックで大きな役割を担うペディオコッカス(Pediococcus)属のような球菌があまり見られません。

ラクトバチルス属の乳酸菌は、ドイツの ライプツィガー・ゴーゼ(Leipziger Gose)やベアリナー・ヴァイセ(Berliner Weisse)などのジャーマン・エールで人為的に使用されますが、これらのサワーエールはランビックと若干違った味わいを呈しています。より酸が際立って、癖がなく(雑味なく)、平坦なのです。実はリンデマンス醸造所のキュヴェ・ルネ(Lindemans Cuvée René)のような本格ランビックでは、これらのジャーマン・エールよりも味わいは明らかに複雑で酸も強いのですが、それでも、他のランビックに比べれば、類似した風味があります。

今回の品は、既存のグーズの中では、(酢酸エチルの個性を伴って)ドリー・フォンティネンに最も近く、2番目にジラルダンが近いと思われます。
リンデマンスの本格的なレギュラー・グーズ(キュヴェ・ルネ)と対照すると、フィニッシュの淡白さに片鱗を思わせますが、そこまでの近さを感じません。

【参考文献】
Belgique Luxembourg 2013 (Michelin Guides). Michelin Editions des Voyages(2013), p.267.

【参考HP】
De Heeren van Liedekercke(蘭語)
http://www.heerenvanliedekercke.be/

東京でOud Beersel Oude Lambiek が飲めます。

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毎年恒例の銀座ファボリの「Lambic Fair」ですが、今年はOud Beersel醸造所(※)の Oude Lambiekが提供されます。これはOud Beersel醸造所の木樽(単体)から直接に汲み入れたもので、ランビック保護団体のHORALのメンバーにお願いし、空輸便で日本に送付して頂きました。

勿論、こういったものは足が早いため、通常日本では飲むことはできません。

このランビックは6/26(木)より提供されるそうです。
5リットル程度に過ぎず、すぐに無くなってしまうかもしれませんが、ランビックに興味がある方で、瓶詰めのストレートランビックしか飲んだことがない方は、この機会に是非試してみて下さい。
なぜなら、樽から直接出したストレートランビックは、ランビックを語る上で、味覚の基準になるものといえるからです。

同時に私のコレクションから、自家製ファロ(Faro)に用いるストゥンペル(Stoemper)を5本ほどお貸ししました。

現在では廃れてしまった慣習ですが、かつてファロといえば、ランビックに氷砂糖を入れて、ストゥンペルで潰して飲む「自家製ファロ」のみが存在し、瓶詰めファロというものは存在しませんでした。

これを機に、ストゥンペルで飲む「伝統的ファロ」を楽しむのも一興です。


【注※】
実際には醸造をしておらず、樽発酵のみを行っています。

【写真】
1枚目:銀座ファボリHP
2枚目:Brouwerij Oud Beersel(筆者撮影)

アルヴィンヌ醸造所と、ノースタイワンブルワリーのこと

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アルヴィンヌ醸造所(Brouwerij Alvinne)は、2003年にベルギー 西フランデレン州インヘルミュンステル(Ingelmunster)に設立された醸造所で、その後、ヘール(Heule)という場所に移転して小規模にビールを造っていました。当時、この醸造所はPicobrouwerij Alvinneと名乗っていましたが、これはマイクロブルワリー(マイクロ=100万分の1)の規模に比べ、更に小さなピコブルワリー(ピコ=1兆分の1)として活動しているという意識からでした。

2011年7月、この醸造所はベルギーの西フランデレン州コルトレイク(Kortrijk)より、南東に10kmほど向かったムーン(Moen)という小さな集落に移り、同年10月に新規に醸造所をオープンさせました。この機を捉え、私は同年12月にこの醸造所を訪れました。

この醸造所は、日本では殆ど真面目に紹介されたことはありませんが、米国ではB. United Internationalが輸入に携わっており、評価も上々でした。また、日本でも紹介されていたストライセ醸造所(Brouwerij Struise)の樽熟成のビールがここで熟成されていることも知っていました。

様々な好奇心を持って訪れた私に対し、醸造所を経営するDavy Spiessens氏も、新たな醸造所の設立直後ということで、日本に「興味」を持っているようでした。
その「興味」とは、「日本にこのビールを輸入してくれる会社はいないか?」ということでした。当時、私はすぐに知人の会社を紹介したのですが、紆余曲折の末、名古屋でベルギービールの魅力を「伝道」している中村 暢秀 氏がこの醸造所のビールを2014年より輸入することになりました。

今年、8月7日~8月17日まで名古屋で「ワールドビアサミット」というイベントがあり、そこで下記のようなドラフトビールが販売されるそうです。

以下、中村氏より提供された文章の引用です。
☆Morpheus Dark アルヴィンヌ・モルフェウスダーク  樽生 10.2%
☆Mad Tom  アルヴィンヌ・マッドトム  樽生
☆Gaspar アルヴィンヌ・ガスパール  樽生 8%
☆Melchior アルヴィンヌ・メルキオール  樽生 11%
☆Mano Negra アルヴィンヌ・マノネグラ  樽生 10%
☆Phi アルヴィンヌ・フィー  樽生 10%
☆Cuvee Sophie アルヴィンヌ・キュヴェソフィー  樽生 10%
☆Kerasus アルヴィンヌ・ケラスス  樽生 7%
☆Pur Sang アルヴィンヌ・ピュールサン  樽生
☆Melchior Monbazillac アルヴィンヌ・メルキオールモンバジャック  樽生 11%

また、中村氏は台湾よりノースタイワンブルワリーのビールも自社輸入されるとのことです。この醸造所のビールを私が初めて試したのは2008年か、2009年だったと思いますが、ライチジュースをブレンドしたビールのクオリティの高さに驚いた記憶があります。
この醸造所のライチビールを含む、フルーツビール各種も上記のイベントでは供されるそうです。

ベルギーにもフルーツビールは多々ありますが、ジュースや濃縮果汁をブレンドし、パスツリゼーションを行ったタイプの場合、ベルギー現地で飲む味と、日本で飲む味とでは、驚くほどの落差があります。そうした意味でも、個人的には中村氏が台湾という近国のクラフトブルワリーの雄に注目した点を評価したいと思います。

以下、中村氏より提供された文章の引用です。
☆台湾、ノースタイワンブルワリー、ノースタイワンホワイト、 5.2% 
・アジアビアカップ2014でも、大活躍した台湾を代表するブルワリー!!
2種類の個性の違う小麦と、ベルギートラピスト酵母、とチェコ産ザーツホップを使って造りました。台湾クラフトビールの第一人者が満を持してついに日本上陸!

☆台湾、ノースタイワンブルワリー、ノースタイワンライチ、 5.0% 
・2006年に発売した、台湾初のフルーツビール!ビールの中にエッセンスを一切使わずに、9%以上のライチジュースを使いました。ノースタイワンブルワリーの一番人気の商品です!

☆台湾、ノースタイワンブルワリー、ノースタイワンアップル、 5.5% 
・the girl and the robotsという台湾の人気バントとりんごビールのアイディアを一緒に考えました。そのバントのバーカル(Riin)が椎名林檎さんの音楽が好きで、いろいろ話し合った上に、りんごを原材料でビールを作ることになりました。「林檎」はりんごの日本語漢字で、台湾語でも同じ発音を使われています。りんごリスペクトのユニークビールです!!

☆台湾、ノースタイワンブルワリー、 ノースタイワンオレンジ、 5.0%
・エッセンスは使わず、100%のオレンジでビールを作りました。ナチュラルなオレンジの皮を使い、エッセンスを使わなくてもまるで新鮮なオレン ジを剥く時に生じる香りがすごく強いです。台湾オレンジとビールの組み合わせは甘酸っぱくてバランスがいい味を生み出しました。そのため、アルコールは普通のオレンジビールより高いです。

☆台湾、ノースタイワンブルワリー、ノースタイワンパイナップル、4.0%
・パイナップルジュースを使い、小麦ビールと一緒に発酵しました。瓶を開ける瞬間、パイナップルの香りがすぐ匂う!そして、パイナップルの甘味と 酸味をよく味わえます!

☆台湾、ノースタイワンブルワリー、ノースタイワンアビィ6、 6.0% 
ベルギートラピスト酵母とキャンディシュガー、キャラメル麦芽を使い、飲んだ瞬間に香ばしいキャラメルフレーバーを味わえます。苦味と甘味もバランスがとても良いです。また、ドイツのハラタウ、イギリスのイーストケントゴールディングスの2種のホップをdry hoppingという技術でホップの強い香りを強調しています!

ワールドビアサミット(名古屋)
http://www.tv-aichi.co.jp/beer/2014/beerinfo/index.html

【写真】
Brouwerij Alvinne(筆者撮影)

■No.715_Beaufort tango (Les Brasseries du Cameroun)

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Beaufort tango (ボーフォール・タンゴ;カメルーン/ドゥアラ)。容量500mL、アルコール度数4.5%、原材料:大麦麦芽、トウモロコシ、ホップ、香料、クエン酸(E330)、着色料(サンセットイエローFCF [通称:黄色5号]、アゾルビン;E122)、甘味料(アセスルファムカリウム;E950、スクラロース;E955)、保存料(安息香酸ナトリウム;E211)。
分類不能なラガービール(カメルーンスタイル・スウィート・レッドラガー?!)。

非常にケミカルな副原料の多いビールです。余談ながら、エネルギー量:47Kcal(196KJ)/dL、炭水化物:3.88g/dL、蛋白質:<1.0g/dL、脂質:0g、ナトリウム:<1.0g/dLです。

「鉛丹」で色付けしたかのような、鮮明かつ人工的な朱色。ヘッドもやや赤みがかっています。バニラのような、かき氷のイチゴ味のシロップのような、小児用液剤にありそうな、人工香料。口に含むと、砂糖水以上に甘味強く、フルボディ(?)の極致。やや穀物っぽい。フィニッシュなきフィニッシュというべきか、舌の上に3~5分は甘味が居座り続けます。苦味なし。

甘味を予想し、冷蔵庫でキンキンに冷やして飲みましたが、それでも予想以上に甘く、これはビールというよりも、何か別のものに似ていると思いました。考えた挙句、思いついたものは、駄菓子屋でよく売られているソフトビニールに入った妖しいコーラ味やソーダ味の、甘いジュースのような液体です。凍らせて食べることもできるが、大抵は先端を歯で切り取り、チューチューと子供が飲んでいる、あの懐かしい「カラフルな汁」です。

このビールに含まれているアゾルビンは我が国では認可されていない着色料です。本成分で思い出されるのは、2003 年に日本マクドナルドが販売していた「ホットアップルパイ」に、アゾルビンが含まれていたことが判明し、販売中止・自主回収に至った事件です。ただし、少なくとも、EU、オーストラリア、ニュージーランド等ではアゾルビンの食品添加は承認されており、癌原性、遺伝毒性も確認されていないようです ( http://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/doc/1332.pdf?ssbinary=true)。

このビールのネーミングにもなっているタンゴ(tango)といえば、勿論、アルゼンチン発祥のダンス音楽のことを言いますが、仏語では「ビールにザクロのシロップを混ぜた飲み物」という意味があるそうです(⇒和醸良酒氏による情報)。

このビールを生産しているLes Brasseries du Camerounについては、Pelforth Extra Stout( http://blogs.yahoo.co.jp/brillat_savarin_1/31052845.html)やCastle Milk Stout( http://blogs.yahoo.co.jp/brillat_savarin_1/33193051.html)の記事で紹介いたしました。
同社の広報誌によれば、このビールは2013年12月11日に発売されました。「カメルーン初の香料添加ビール」を謳っています。

世界は広く、驚きに満ちており、人がビールに期待することは、人の数だけあるのかもしれない。このビールを飲んで得られる最大のメリットは、味や香りといった感覚的なものではなく、そんな「抽象的な何か」だったような気がします。

【謝辞】
本品は、盟友(?)和醸良酒氏( http://blogs.yahoo.co.jp/mojukoe/47624647.html)に頂きました。このような機会を賜りましたことを心より御礼申し上げます。御礼も兼ねての伝達ですが、下記の「広報誌」の4頁に、貴殿が夢想した工場長がいます。ご参照ください。

【参考HP】
醸造所HP
http://www.lesbrasseriesducameroun.com/

醸造所広報誌
http://www.lesbrasseriesducameroun.com/sites/default/files/33_degres_a_lombre_numero_062_pour_le_site_0.pdf

※ Yahooブログの不備らしく、本記事でwiki文法を使用すると、画像UPが出来ませんので、wiki文法を用いていません。リンク表示が見苦しいですが、お許し下さい。

■No.716_Piwo Grodziskie (Grätzer Ale)

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Piwo Grodziskie (ピヴォ・グロディスキー;ドイツ/バイエルン州)。アルコール度数4.0%、原材料:大麦麦芽(風乾)、小麦麦芽(ブナによるスモークド・モルト)、ホップ(ペーレ、ザーツ)。無濾過、非加熱、瓶内発酵。グロディスキー。

やや白濁した、オレンジがかったペールカラー。白いヘッド。スモーキーなアロマと草のようなホップのアロマ、やや酸味を予想させるレモンのようなアロマがあります。口に含むと、スモーキーな風味と、柑橘系あるいはバナナのような果物の風味。レモン様の明確な酸味。ホップの苦みは非常に弱い。ライトボディです。

非常に独創的なスタイルのエールです。大雑把な印象として、酸味はあるがベルリナー・ヴァイセやゴーゼほどではなく、スモーキーではあるがラオホ・ヴァイツェンのような強さはなく、一方で、これらの小麦ビールよりもややホップの個性が目立つビールです。

“グロディスキー(Grodziskie)”は、ポーランド発祥の「失われたビアスタイル」であり、1900年代までは盛んに醸造されていた小麦ビールです。Grodziszあるいは、Grätzer Bier(独語)等とも呼ばれ、その歴史はマイケル・ジャクソン氏によれば、1301年にまで遡ることができます。

今回の商品名に冠されている “piwo(ピヴォ)”とはポーランド語で「ビール」の意味で、良く知られた単語ですが、チェコ語の“pivo(ピヴォ)”に相当します。
言語史上、スラヴ語圏では「ホップを用いたビールのみ」をこの系列の単語で呼び、逆に、ホップを用いないグルートビールは、“braga”等と呼ばれました(Unger;2004)。これは中世のオランダ語圏でホップを用いたホッペンビール(hoppenbier)とそうでないビール(ケイト等:kuit/cuyte)との関係と類比的です。

現在のポーランドにグロディスク・ヴィエルコポルスキ(Grodzisk Wielkopolski)という小さな街がありますが、“グロディスキー(Grodziskie)”という名は、この街の名に由来します。1793年から1918年までプロイセン/ドイツ帝国に編入されており、当時はドイツ語でGrätz(グレーツ)と呼ばれました。

1880年代には、グレーツでグロディスキーを造る醸造所は5軒存在し、年間80,000hL程度のグロディスキーが生産されていました。その後、英国の投資家がこの5軒の醸造所を全て買収して醸造所を全て併合し、1922年よりグロディスキー連合醸造所(Zjednoczone Browary Grodziskie)でのみこのビールは醸造されるようになりました(Pattinson;2014)。

その後、共産体制下の国営化時代にもグロディスキーは醸造され続けました。当時の写真だと思われますが、「Piwo Grodziskie wróci do sklepów?(グロディスキー・ビールがお店に戻ってくる?)」というポーランドの記事(Głos Wielkopolski)には、このビールを木樽で貯蔵している古い写真が見られます(参照)。また、廃屋化していますが、写真2枚目のグロディスキーを造っていた本場の醸造所の外観を見ることができます。

国営化されていた醸造所は1990年代に私有化され、1993年にグロディスキーの醸造は終焉を迎えることとなりました。しかし、2000年代以降のクラフトビール・ブームの流れを受け、オランダのドゥ・モーレン(De Molen)、ノルウェーのヌグネ・エー(Nøgne Ø)、チェコ(プラハ)のピヴォヴァルスキー・ドゥム(Pivovarský Dům)等の名立たる前衛的な造り手が、グロディスキーに触発され、その名を冠したビールを醸造しています。また、グロディスク・ヴィエルコポルスキの醸造家もこのスタイルのビールに取り組んでいます。

今回のビールでは小麦のスモークド・モルトの焙燥にブナが用いられています。しかし、歴史的にはオーク材が汎用されていたと様々な書籍に記載があります。アルコール度数は2.5~5%(ABV)の範囲で、スモーキーなこと、野生酵母や乳酸菌の影響で酸味を有すること、非常にライトボディなこと等の特徴が挙げられています。

1901年にRobert Wahlらによって著された “American Handy Book of the Brewing, Malting and Auxiliary Trades”という古い醸造書がありますが、この本を紐解くと、「2/3のスモークド・ウィートモルトと、1/3のバーレイモルトを原料とする」と記載され、時代を反映して、ドイツのローカルビールとして醸造法と共に紹介されています(821頁)。一方、Ronald Pattinsonは100%小麦が用いられていたと指摘しています(確かに、グロディスキーのラベルには、「最上の小麦と、素晴らしいホップ以外の混ぜ物なしに醸されたビール」といった説明があるものもあります)。

今回ご紹介の品は、フリッツ・ブリーム氏(Fritz Briem)が、「歴史上のレシピ」に基づき、復刻したグロディスキーで、2011年にリリースされました(ブリーム氏については、このシリーズのグルートビールベルリナー・ヴァイスの項で触れました)。

大麦麦芽(風乾)、小麦麦芽(ブナによるスモークド・モルト)、ホップ(ペーレ、ザーツ)を原材料としています。また、同氏の解説によれば、今回のビールは“Digerieren(digestion)”と呼ばれる古いサワーマッシュの方法を採り、3ヵ月間の熟成期間を経て造られているそうです(Digerierenとは一体何のか、最後まで分かりませんでしたが!)。

【参考文献】
Ronald Pattinson. The Home Brewer's Guide to Vintage Beer: Rediscovered Recipes for Classic Brews Dating from 1800 to 1965. Quarry Books(2014).
Stan Hieronymus. Brweing with wheat, Brwers Publications(2010).
Richard W. Unger. Beer in the Middle Ages and Renaissance, University of Pennsylvania Press(2004).
Michael Jackson. Michael Jackson's Beer Companion (2nd Ed.), Duncan Baird Publishers(1997).
Robert Wahl. American Handy Book of the Brewing, Malting and Auxiliary Trades, Wahl & Henius(1902).(参照)

論文紹介:伝統的な自然発酵ビール「ランビック」における微生物多様性

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科学雑誌「PLOS ONE(プロス・ワン)」の2014年4月18日号に「The microbial diversity of traditional spontaneously fermented lambic beer」というゲント大学の研究者グループによる論文が掲載されています(本論文)。和訳すれば、“伝統的な自然発酵のビール「ランビック」における微生物多様性”といったところでしょうか。

本研究では、カンティヨン醸造所(Brasserie Cantillon)のランビックについて、冷却1晩後、樽詰1晩後、1週後、2週後、3週後、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後、9ヵ月後、12ヵ月後、18ヵ月後、24ヵ月後と2年間にわたって、出現する微生物の種類を検討しています。

経時的な微生物の移行については、1ヵ月時までにエンテロバクター(Enterobacteriaceae)、2ヵ月後頃から乳酸球菌(Pediococcus damnosus)やサッカロマセイセス属(Saccharomyces spp.)の酵母が勢力を増して、6ヵ月頃からブレッタノマイセス属(Dekkera bruxellensis)の酵母に置き換わるという結論でした。

この辺は、大して新鮮味のない結論で、6年程前に別の古典的な論文を紹介しましたが、それと本質的に異なりませんので、そちらをご参照ください(ただ、私が紹介した論文は1970年代のものであり、当時は酵母やバクテリアの分類名が現在とやや異なります ※)。

個人的に、この論文で興味を持ったのは、Table 2(表2)です。

この表では、麦汁冷却前の屋根裏の空気中(Air attic before cooling)、冷却後の屋根裏の空気中(Air attic after cooling)、クールシップ(Cooling tun)、屋根(Roof)、樽を保管しているセラーの空気(Air cellar)、セラーの天井(Cellar ceiling)、セラーの壁(Cellar wall)、樽の外面(Cask outside)、樽の内面(Cask inside)など、醸造所内の様々な場所に関して、どのような微生物が存在したかを解析しています。

たとえば、ブレッタノマイセス属の酵母は、樽の内面にしか存在しないことが書かれています(“ランビック酵母”が1晩麦汁を冷却すると、「降ってくる」という「有りがち」な説明は、間違いというわけです・・・)。その麦汁が冷却されるクールシップのある屋根裏の空気は、使用前と使用後では微生物の多様性も異なるようです。

醸造所内の微生物の分布に関しては、Hubert Verachtertという有名な先生が1980年代に類似の研究をされており(拙著「ランビック―ベルギーの自然発酵ビール」 の57頁を参照)、本研究も先人のリサーチに触発されたものかと思います。しかし、今回のレポートでは、醸造所の環境をより徹底的に検討しており、かなり興味深いものと感じました。

【注 ※】
1977年にVan Oevelenらが発表した論文(J Inst Brew 1977; 83: 356-360)は、ドゥ・ネーヴ醸造所(Brouwerij De Neve:廃業)の発酵プロセスを研究したものであるが、今回のカンティヨン醸造所の発酵プロセスとの間に決定的な相違がないという事実は、ランビックに興味がある者にとっては重要な知見のように思われる。

【出典】
The microbial diversity of traditional spontaneously fermented lambic beer.
Spitaels F, Wieme AD, Janssens M, Aerts M, Daniel HM, Van Landschoot A, De Vuyst L, Vandamme P.
PLoS One. 2014; 9(4): e95384.
論文(フリーアクセス)

【写真】
カンティヨン醸造所のクールシップ(筆者撮影)

■No.717_Hellers Wiess(Hellers Wieß)

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Hellers Wiess (ヘラース・ヴィース;ドイツ/ノルトライン-ヴェストファーレン州)。アルコール度数4.5%、原材料:大麦麦芽、小麦麦芽、ホップ。初期比重1.047(11.7プラート)、無濾過ケルシュ(ヴィース)。

白濁したイエロー。草のようなホップのフレーヴァ―、ややイースティで、小麦を思わすフレーヴァ―。モルトの風味と甘味。ヘラース・ケルシュ(Hellers Kölsch)に比べ、ややシトラス様のフルーティさを感じます。また、(この醸造所自体の特徴だと思うのですが)ケルシュに期待すべきものに比べ、モルトの甘味が強めで、よく言えば味わい深いが、悪く言えば少々野暮ったい感じがします。

あまり知られていませんが、ケルンにもケルシュ以外のビールを造っている比較的新興の醸造所が幾つかあります。例えば、バーバロッサプラッツ(Barbarossaplatz)の近くにあるブリューパブ「ヴァイスブロイ(Weissbräu;1991年設立)」は、ケルシュも造っているものの、醸造所の一押しはヴァイツェン(Weizen)です。

また、ヴァイスブロイからさほど離れていないところにあるヘラー醸造所(Brauerei Heller/Hellers Brauhaus)は、現在ではヴァイツェン、ピルスナー、マイボック、(邪道にも?)アルトといったように、ケルンの醸造所では珍しく、非常に多くのビアスタイルに手を出しています。この醸造所は1991年にフーベート・ヘラー(Hubert Heller)により蒸留所跡に設立されました。

勿論、ヘラー醸造所もケルシュは造っていますが(Hellers Kölsch)、この醸造所を有名にした銘柄は、故マイケル・ジャクソンが“Great Beer Guide(邦題:世界の一流ビール500)”で紹介したケルシュの無濾過バージョンであるヘラース・ヴィース(Hellers Wiess)ではないでしょうか(※)。

このようなケルシュの無濾過バージョンは、「ウーア・ヴィース(Ur-Wiess)」あるいは、単に「ヴィース」と称されます。「ヴィース」は、ケルン方言で「ヴァイス(Weiss:白)」を意味します。エリック・ワーナー(Eric Warner)は、このようなビールを「より伝統的なケルシュの無濾過バージョン」と解説しています。また、マイケル・ジャクソンによれば、お祭りで注がれる「牧草地」のビールといった含意があるそうです(“Wiese”[牧草地]との引っ掛けでしょうか?)。

このようなタイプのビールはケルシュの有名生産者であるドーム醸造所でも、かつては少量生産していたそうですが、今日では商用としては姿を消してしまったようです。
マイケル・ジャクソンは、このヘラー醸造所を「一匹狼(maverick)」と称し、実際、Rickらによって書かれた「ケルシュ文化(Kölsch-Kultur)」という、包括的にケルシュを取り扱ったドイツ語書籍でもこの醸造所は黙殺されています。

しかし、ケルンの醸造所組合(Kölner Brauerei-Verband)に属する醸造所の約半分はもはや自前でケルシュを醸造している訳ではなく、他社に委託生産を行っているのが現状です。そのような中、新参の醸造所とはいえ、こういう趣向のものを残す醸造所が存在することは肯定的に捉えるべきなのかもしれません。

最後に、Steve Thomas(2006年)によれば、醸造所全体の年間生産量は2,200hL程度であり、今回テイスティングしたものはドラフトですが、各種の銘柄は500mL瓶に詰めて販売されています。

【注※】
ヘラー醸造所は、かつてはケルシュと、無濾過ケルシュ(ヴィース)のみを醸造していた。なお、本項で紹介したヴァイスブロイもヴィースを時々販売している。

【参考文献】
Garrett Oliver. The Oxford Companion to Beer, Oxford University Press(2011).
Steve Thomas. Good Beer Guide Germany, CAMRA Books(2006).
Detlef Rick, Janus Fröhlic. Kölsch-Kultur, Emons(2005).
長尾伸. ドイツビールへの旅, 郁文堂(2003).
Michael Jackson. Great Beer Guide, Dorling Kindersley (2000).
Michael Jackson. Michael Jackson's Beer Companion (2nd Ed.), Duncan Baird Publishers(1997).
Michael Jackson. How Herr Heller keeps Cologne's beer flag flying.(Published Online: OCT 1, 1997)(URL)
Eric Warner. Kölsch, Brewers Publications(1998).


写真:筆者撮影

■No.718_Schlüssel Alt (Original Schlüssel Alt)

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Schlüssel Alt (シュリュッセル・アルト;ドイツ/ノルトライン-ヴェストファーレン州)。アルコール度数5%。原材料:大麦麦芽、ホップ。濾過済。アルト。

デュッセルドルフの旧市街(アルトシュタット)には、フュクスヒェン(Füchschen)、ユーリゲ(Uerige)、シュリュッセル(Schlüssel)、シューマッハー(Schumacher;Schumacher Im Goldenen Kessel)、新興のクーツァー(Kürzer)等、アルトビールが飲める醸造所直営のパブが幾つかあります(※)。

それぞれ明確な個性がありますが、シュリュッセル・アルトはやや淡色で、パンのようなアロマや香ばしさがあるものの、モルトの個性に対して相対的にホップの個性がやや強く(とはいえ、ユーリゲのようにホッピーでもない)、ボディが軽く、非常にドリンカブルな特徴があります。

ツム・シュリュッセルは、1850年にJakob Schwengerが現在の建物のオーナーとなり、パン屋と醸造所を始めたことに端を発します。その後、醸造家Josef Adersがパン屋と醸造所の2つの建物を合体させ、「ツム・シュリュッセル」と命名しました。「Schlüssel」とはドイツ語で「鍵」という意味ですが、これは街の門扉の鍵をこのパブで保管していたことに由来するそうです。

1936年にKarl Gatzweilerがこの醸造所を承継して、現在までこの一族が醸造所を経営しています。
“Gatzweiler”と聞いて“別のアルトビール”を想起する方は中々のビール通です。その名を冠するアルトを筆者は以前紹介し、その関係についても述べました(参照)。
なお、稀にガッツ・アルトとシュリュッセル・アルトは「同じもの」と書かれた書籍を見かけますが、両者は異なるものです。

レストランの最奥の部屋に行くと、醸造所のケットルをガラス越しに見ることができますが、この設備は1990年に改装したものだそうです。Steve Thomas(2006年)によれば、醸造所全体の年間生産量は17,000hL程度であり、今回テイスティングしたものはドラフトですが、各種の銘柄は500mL瓶に詰めて販売されています。

【注※】
この5店舗はすべてUバーンのハインリヒ・ハイネ・アレー(Heinrich-Heine-Allee)駅の近くにあり、容易くハシゴできます。因みに、旅行者向けの「ガイドブック」などに載っているシューマッハー醸造所の有名なビアレストラン(Ferdinand Schumacher Stammhaus)は新市街の日系企業が立ち並ぶインマーマン通り(Immermannstrasse)の近くにあります。

【参考文献】
Steve Thomas. Good Beer Guide Germany, CAMRA Books(2006).
長尾伸. ドイツビールへの旅, 郁文堂(2003).
Horst D. Dornbusch. Altbier, Brewers Publications(1998).


■No.719_Gruut Belgian Wit Beer

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Gruut Belgian Wit Beer (フルート・ベルジャン・ウィット・ビア;ベルギー/東フランデレン州)。アルコール度数5.0%、330mL、原材料 大麦麦芽、小麦、ホップ。無濾過、非加熱。ベルジャン・ウィートエール。

小麦、穀物、蜂蜜、シトラス系の香り。微かに酸味を思わせる香り。口に含むと、これらの味わいに、パンのような甘味があります。味わいの要素がやや少なく、強度も弱いため、全般的には、やや淡白なベルジャン・ウィートエールという印象が残ります。

ベルギーの醸造所には、有名な女性醸造家が何人かいます。
既に20年以上前に引退してしまいましたが、今でもフランデレンの醸造所を訪れると話題に上がる伝説的な人物が、リーフマンス醸造所のマダム・ローゼ(Rose)です。元々はバレリーナという異色の醸造家で、故マイケル・ジャクソン氏が好んでこの人物を書きました。

現在も活動中の「重鎮格」では、アベイ・デ・ロック醸造所のナタリー氏(Nathalie)、デ・ライク醸造所のアン氏(Anne)が女性醸造家として真っ先に思いつくところです(周知の通り、日本にも腕の立つ女性醸造家が何人かいます)。

今回ご紹介のフルート醸造所(Gentse Stadsbrouwerij Gruut)は2009年にヘント(Gent)に設立された新興醸造所で、女性醸造家アニク・ドゥ・スプレンテル氏(Annick De Splenter)が運営しています。“brouwerij(醸造所)”の語頭に“Stads(街の/都会の)”といった語が冠されていいますが、ヘントの(Gentse)「街の醸造所」といった意味です。

興味深いことに、このドゥ・スプレンテル一家はかつてリーフマンス醸造所を買い取ったリヴァ醸造所(デンテルヘム:2007年閉鎖)を経営していました。もし、リヴァ醸造所が現在も稼働していたならば、このフルート醸造所の女性醸造家が経営していたかもしれないとティム・ウェッブ氏(Tim Webb)は述べています。

“Gruut”は、英語でいう グルート(gruit)のことです。醸造所のホームページによれば、現代の醸造技術と、グルートを用いていた時代の古い醸造法の融合を目指しているとのことで、醸造所のシンボルマークとして、グルートが通貨単位として扱われていたカール大帝時代の1グルート貨幣を採用しています。

このブリューパブは、ヘントの中心部にあるため、アクセスが良く、観光のついでに簡単に訪れることができます。電車とバスを使うならば、ヘント・シント・ピーテルス駅(Gent-St.Pieters)から街の中心部に出るバスに乗ります。電車と徒歩で行く場合は、ヘント・ダンポールト駅(Gent-Dampoort)から徒歩15分程度で赴くことができます。

また、ヘントは街中に運河が張り巡らされていますが、醸造所は運河の脇にあります(写真2枚目、やや右寄りの黒っぽい建物)。醸造所では、運河クルーズと醸造所見学(±テイスティング)のセットプランを実施しています(20人以上の予約)。

【文献】
Tim Webb, Joe Strange. Good Beer Guide Belgium 7th Ed., Camra Books(2014).

Vintage Beer: A Taster's Guide to Brews That Improve over Time

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今年に入って、(全て洋書ですが)ビールに興味がある人にとっては実に刺激的な書籍が発刊されています。

1冊目は、ベルギービール愛好家であれば、必須の書籍ですが、Tim WebbとJoe Strange による「Good Beer Guide Belgium第7版」でしょう。相変わらずの充実の内容です。この書籍については、別の機会に評論します。

2冊目は、Michael Tonsmeire氏による「American Sour Beer: Innovative Techniques for Mixed Fermentations」です。Brewers Publicationsの「ビアスタイル」を対象とした書籍は2012年の「IPA」以来ですが、この書籍の内容は日本のクラフトビール文化の成熟度は、米国のそれにまだ遠く及ばないことを痛感するものでした。

もっとも、税制的な観点から、個々人がホームブリューングを行うことが許されない日本において、樽熟成のサワーエールはプロフェッショナルの醸造家が行うことになり、そこには通常のビールへのコンタミネーションの危険性がはらんでいます。
そのことを踏まえつつ、現在のクラフトビールの需要や市場規模を前提に、「コンタミネーションを予防するための別施設の樽貯蔵庫や人員などの投資を要するような、このスタイルのビールをプロフェッショナルが何処まで真面目に取り組むべきか」という疑問があります。
法的にみて、ホームブリューングは厳に慎むべきですが、ホームブリューングを禁じることで、ビールの多様性と実験性はいかに阻害されているのかを考えてみるべきです(少なくとも、ビールの多様性を擁護する立場であるならば)。

さて、横道に逸れましたが、3冊目は今回ご紹介の書籍であるPatrick Dawson著の「Vintage Beer(ビンテージ・ビア)」です。なんと、ビールの長期熟成のことに焦点を当てた書籍です。まず、5年、10年というタイムスパンの「熟成ビール」のみを話題にする書籍という時点で「驚き」です。

このブログでも、「ビンテージ・ビール」については何度か紹介してきました(参考:トマス・ハーディーズ・エールの“垂直テイスティング”幾つかの事例)。
また、「瓶内のエールの質的変化」についても若干考察しました(過去記事)。

この書籍は、「まえがき」、「はじめに」、全1~6章の「本文」、「付録(アペンディックス)」から構成されています。

第1章は「ビンテージとなりうるビールの法則性」について、一般論を述べています。
第2章は「ビンテージ・ビールのポテンシャル」として、その味わいの要素の変化の一般論を述べています。
第3章・第4章はそれぞれ「ビンテージ・ビールとなりうるビアスタイル」と「代表的な銘柄」の解説、第5章・第6章は「セラー選びとビンテージ・ビールの保存法」について述べています。

章名からだけでも推測可能なように、非常に独創的な内容です。

個人的には、「第4章」の代表的な銘柄の味わいの変化について論じた箇所は、かなり興味深いと感じました。ただ、経験論からして、代表的な銘柄の香味要素の分析については、信頼性が何処まであるのか若干疑問も残りました(特に「エイジング・プロファイル」のグラフ)。
また、「第1章」では、好気性であるはずのブレッタノマイセス酵母が「瓶内で長期熟成に寄与する」といった主張など、データを載せることなく断言していますが、科学的には、ちょっと怪しい話です(グーズでもブレッタノマイセス酵母は2年目には機能しなくなることを示唆するデータがあります)。

他にも、ドゥ・ドレ・ブロウウェルズのクールシップの機能をランビック醸造所のそれを同一視してしまっている勘違いなど、幾つかスペキュレーション(推測)に基づく見解や「早とちり」があります。

しかし、細部はさておき、米国におけるこの野心的な著作を前に、ビールに関わる日本の表現者・出版社は、いつまで「今の場所」に留まり続けるのかを、問うてみたほうが良いと思います。

例えば、最近次々と刊行される日本の「ビール本」は、ビールの銘柄のカラー写真と、その解説からなる「ありきたりな銘柄の紹介本」ばかりです。以前は、私はこれらの本を内容を確認せず、無条件で全て買っていましたが、そのうち、買うに値するか否か、立ち読みを一瞬するだけになり、買わなくなりました。

なぜなら、内容も丹念な調査に基づかず、ビールのラベルや輸入元のパンフレット、ホームページに書かれていこと、何処かに書かれたことを再生産しているだけで、無料で読める「brillat savarinの麦酒天国」と大して変わらないのです(さすがにこの胡散臭いブログと比較されたら怒るか・・・ 笑)。

示唆に富むエピソードを1つ挙げます。

今から4年以上前のことですが、あるベルギービールの和書について、内容に驚くような誤り(元は英文か仏文の情報で、その誤訳のような気がしました)があり、著者に問い合わせたことがあります。こうしたことは私にとって初めてのことでしたが、それは自著を書くための裏取り作業の1つで、内容的に避けることはできませんでした。

その際、著者の方は「各輸入元からの情報や参考文献からのもの」をそのまま書いただけであり、「私としては、美味しいビールを作ってもらえればそれで良く、醸造家などではない限り、細かい手法などについてはあまり大きな問題ではないと考えています」と回答してきました。

御本人は本業の「名刺代わり」に本を書いているのかもしれませんが、その書籍を読んでいる人は、ほぼ例外なく、その書籍のためにお金を出して買っているわけで、カタログやブログのように無料で配布されたり、配信されたりするものではないのです。

職人の造ったビールは10年でも「ビンテージ・ビール」として愛蔵されるというのに、それについて論じた書籍はどうなのでしょうか。
こんな問いを立ててみたとき、少なくとも、この「Vintage Beer」という書籍については、今まで十分に語られて来なかった話題に真正面から取り組んでおり、その「切り口」において、クラフトビールの世界に名を残す「記念碑」となる予感がします。

誤解のないように付言しますが、ビールはワインではなく、ワインのように存在するべきだとも思いません。しかし、ビールは実に多様性に満ちており、その中の幾つかは「ビンテージ・ワインのように愉しむことさえできる」という事実を体系化しようとする試みは、真に野心的だと思いませんか?

Vintage Beer: A Taster's Guide to Brews That Improve over Time
著者:Patrick Dawson
ペーパーバック: 149ページ
出版社: Storey Books
言語: 英語
発売日: 2014/3/11

ランビックの増産と、トラピストビールの評価の変遷

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ベルギービール業界の方々の中には肌身で感じておられる方も多いと思いますが、近年、一部のアウドゥ・グーズ(oude geuze:瓶内発酵型グーズ)の流通量が減ったり、価格が上がったりしています。その最大の理由は、需要に対し、生産量が追い付いていないことがあります。

こうした事態を受け、幾つかの醸造所が増産態勢に入っています。
既に、2013年4月にフランク・ボーン(Frank Boon)が新醸造所をオープンさせたことは記事で触れました(参考)。

カンティヨン醸造所(Brasserie Cantillon)は、現醸造所から300mほど離れたところに新たに樽セラーを設ける形で醸造所を拡張することを発表しています(8/1リリース)。
因みに、このセラーは1960年代に廃業したランビックブレンダーである“Brasserie Limbourg”という生産者の拠点だったそうです。

現醸造所は今まで通り稼働させ(樽発酵も行い)、一部の麦汁を新セラーへ運ぶという形で、生産量を増やす計画で、年々生産量を増加させ、最終的には2倍の生産量とし、2016~2017年には新たなセラーで発酵させた新酒を用いたランビックが出回るとのことです。

個人的には、この増産は嬉しい反面、「不安」でもあります。

ランビックは本質的に「質の一定性」を保つことが不可能な酒なのですが、1つの傾向として、この10年程でカンティヨン醸造所の品々の個性が相当マイルドで、飲みやすいものに変わり、少なくとも私にとっては、それはあまり嬉しいことではなかったからです(つまり、先述の「不安」とは、自分の味覚・嗜好が、「時代」や「銘柄」の変化と不一致を起こすことへの「不安」と言い換えることができるのかもしれません)。

単純に類比できませんが、かつて、一部のトラピストビールの生産者がニーズに応えるべく、製法を簡略化し、増産を行い、味わいの「複雑性」を失っていった歴史を思い出します。この点は、マイケル・ジャクソン氏、ティム・ウェッブ氏など、多くの識者も指摘しています。面白い一例として、「Good Beer Guide」の各トラピストビール(レギュラー品のみ:330mL瓶に限定)のスコアの変遷をまとめたものを提示します(筆者作図:※)。

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少し分かりにくい図で恐縮ですが、スコアは銘柄毎に1~5点で評価されており、「○」の中の数字はその得点に該当する銘柄数を意味しています(例えば1992年は、5点満点が9銘柄あった)。黒い折れ線が平均点です。元来、トラピストビールの評価は非常に高いのですが、年々その平均点は下がる一方だったことが分かります(2014年に平均点がやや上向いたのが「救い(?)」ですが ※※)。

「点数なんて信用できない」という方もおられるかもしれませんが、それは抽象的な発想であり、実際に継続的にこれらのビールを10数年以上飲んでいた人ならば、少なくとも幾つかの銘柄について、「複雑性」を失ったことは論じるまでもない「当然のこと(既成事実)」です(といいますか、全く別の味わいのものになった銘柄もあります・・・)。
その一方で、この得点はあくまで「ある一定の味わいの傾向を評価する立場」での得点ですから、そもそも「シンプルさ」こそが、より多くの人に好まれるための「新たな特徴」であり「マーケティング条件」に見合ったものであるという可能性も否定はしません。

2000年以降のランビックは、1990年代までのランビックと既に個性が大きく異なっていました(ドリー・フォンティネンでさえ、1990年代のものは現在の比ではないほど酸味強かった!)。詳しくは書きませんが、2000年代と、2010年代でさえも幾つかの要因で、ランビックは味わいを変えています。

長くベルギービールを飲んでいる方々は、勿論、自分自身の嗜好こそ第一優先にするとしても、個々の銘柄が思いのほか変化を遂げていく事実を敏感に捉え、それを「可能な限り愉しむ」という術を知っているように思います。

【注】
※ Westvleteren 6は、1998年まではダーク・キャンディシュガーを用いたDubbel(赤色のキャップ)、それ以降はBlond(緑色のキャップ)です。
※※ もっとも、3.5点で「平均以上の品」とされているので、平均点が4点以上をキープしている時点で、そのクオリティは高く評価されているということは念頭に置きたいところです。

【写真】
1枚目:
スクールモン修道院内にあるシメイ醸造所内の研究所より。現在のシメイのスタイルを確立した故テオドール神父が用いていた器具が現在でも飾られており、その傍らには同氏の在りし日の写真が掛けられている(筆者撮影)。

■No.720_Sint Canarus De Maeght van Gottem

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Sint Canarus De Maeght van Gottem (シント・カナーリュス・ドゥ・マーフト・ヴァン・ホッテン;ベルギー/東フランデレン州)。アルコール度数6.5%、原材料:大麦麦芽(ピルスナー、ペール)、ホップ(Vlamertinge産:瓶内にホール・ホップあり)。無濾過、非加熱、瓶内発酵。ブロンド・エール。

ボトルの中にホール・ホップが丸ごと入っています(写真1枚目:ボトルのネックの箇所を御覧下さい)。

アロマは、華々しさはないが、艶やかなでスパイシーなホップのアロマ。ベルギービールを飲み慣れている人ならば、典型的なベルギー産ホップであることはアロマで容易に分かります。
口に含むと、中程度のモルト風味と、比較的しっかりしたホップの苦味。やや柑橘系の風味。異味などはありません。数本空けましたが、かなりガスが強い個体があるようです。

“Maeght van Gottem”とは、「Gottem(醸造所のある地名)のヴァージン(virgin)」という意味です。
ベルギーのポペリンゲ(Poperinge:ポペリンヘ)より東に5kmほど行ったところにヴラーメルティンフ(ヴラーメルティング:Vlamertinge/Vlamertinghe)という村がありますが、そこで収穫されたホップを用いています。

何といっても異色な点は、ボトルの中に丸ごとホール・ホップが入っているところです。
醸造所を経営している“Dr. Canarus”こと、ピエット・メイールハーヒ氏(Piet Meirhaeghe)にお聞きしたところ、「どうやったらホップのアロマを最大化できるかを探究した結果、瓶の中でドライホッピングをすることを思いついた」とのこと。「そして、直接ボトルの中にホップを入れてしまった方が簡単だ」と冗談のようなことを真顔でおっしゃっていました。1本ずつボトルの中に手で入れているそうですが・・・。

同氏は、東フランデレン州デインズ(Deinze)でシント・カナーリュス醸造所(Huisbrouwerij Sint Canarus)を経営しています。また、日曜日の11:00~21:00のみブリューパブをオープンしており、地元の人々でかなり賑わっています。元々、ピエット氏は1993年頃から10~70リットルのバッチで、趣味でホームブリューイングを始めました。また、その頃から、リヴァ醸造所(デンテルヘム:2007年閉鎖)で醸造士をしながら修業を積んだそうです。

その後、2004年に現在の場所に居を定め、2005年には1バッチ200リットル、2009年にはプルーフ醸造所(Brouwerij Proef)の助けを受けながら、1バッチ800リットルというように醸造所を拡大してきました。
現在用いている発酵タンクは1,250 Lのものが2基、3,000 Lのものが1基あります。

なお、ベルギーの醸造所を紹介する人気番組「トゥルネー・ジェネラール(Tournée Générale)」でもこのビールは紹介されました。是非、番組を覗いてみて下さい(→HP)。

【参考文献】
Tim Webb, Joe Strange. Good Beer Guide Belgium 7th Ed., Camra Books(2014).
Tim Webb and Joris Pattyn. 100 Belgian Beers to Try Before You Die !, CAMRA Books(2008).

【参考HP】
醸造所HP
http://www.sintcanarus.be/

ロルフ・クッチマンさんの引退

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2014年7月末をもって、大阪・堂島にあるドイツレストラン「ローレライ」の名物マスターであるロルフ・クッチマン(Rolf Kutschmann)さんが引退されました。

今後、お店はナオコ・クッチマン(Naoko Kutschmann)さんが今まで通り経営されるそうです。

私が起業する以前、東京から大阪に出張する唯一の楽しみがこの店を訪れることでした。
1974年の開店以来、40年間もの間、お疲れさまでした。


【写真】
Berliner Kindl Weisse mit Schuß Himbeere(筆者撮影)

過去記事:
No.128_Berliner Kindl Weisse
http://blogs.yahoo.co.jp/brillat_savarin_1/7409853.html
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